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橋本多佳子様 to 二人句会
ブログ紹介
雪の日の浴身一指一趾愛し
これは多佳子様の辞世の句とされています。
この句について、私の感じたままを述べます。
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雪が天から降ってくる…僅かの穢れもない純白・純粋な雪。
幼い頃、人は雪とひとつの心になって無心に戯れたものね。
貴女は降る雪に飛びかかっては、無邪気に走り回ったかも。
雪は貴女を少しも恐れることなく、纏いつき・包みこんだ。
雪は貴女を少しも分けへだてせず、やさしく接してくれた。
雪は貴女の指に停まって、それからゆっくり解けたのだわ。
貴女の裸の趾に停まって、キュッキュッと啼いて解けたわ。

降る雪に、貴女の幼い日の佳い想い出が解け出してきたの?
湯浴みしていた貴女の心に愉しかった想い出が蘇えったの?
愛され愛した、可愛がられ可愛がった、慕われ慕った記憶。
気の毒に思ったり、いとしく感じたり、憐れんでもみたり。
しみじみ心惹かれて、互いを慈しみ合い、仲よく過ごした。
それに、大切な方との二人だけの思い出も大事な記憶よね。
貴女の身体・貴女の手足の指の一つひとつが記憶している。

次から次と走馬灯の絵のように浮かんでくる素敵な想い出。
振り返るに、貴女の生はいろんな愛で埋め尽くされてきた。
みんなに愛されたのは貴女が素敵な心で生きたからだけど…
誰も貴女の心を見えないし、じっさい・誰にも判らなかった。
貴女の想いを世界に届けてくれたのは愛すべき身・指・趾ね!

(通解)
雪の降る日のお風呂で多くの懐かしい想い出が次々と蘇える。
身も指も趾も、素敵な日々をありがとう。心から愛しているよ。



【愛し】を「いとし」「かなし」と読む人がほとんどですが、私は「あいし」と読む。

多佳子氏の想いを酌めば「いとし」「かなし」「うるわし」「いつくし」の読みも分る。

私は、多佳子氏がご自分の永遠の行動を誓った句と理解し「あいし」とした。

即ち、
【愛し】(あいし)愛する人の行動には「いとし」「かなし」「うるわし」「いつくし」の想いが含まれるのです。


(この項、2008年8月19日。記す)
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(補正)

【愛し】の読み方について、誤解のないように付け加えます。

あなたが多佳子氏を写生なさるお気持でこの句をお読みになるのでしたら、「いとし」「かなし」あるいは、「うるわし」「いつくし」の読みで好いと思います。
現に多佳子氏の師匠の山口誓子氏は「いとし」と読んでいます。
同じ理由で「かなし」も好いと思うし、「うるわし」「いつくし」も好いと思う。
山口誓子氏は弟子・多佳子氏を心底から「愛おしく」思ったのでしょう。
いっぽう、私が「あいし」と読んだのは、多佳子氏の「直弟子志願者」としてです。

【即ち】
雪の日に湯浴みしている多佳子様。
彼女は希望を以って明日に向きあって生きている。
時に、感傷に浸ることはあっても、現実の行動は積極的です。
身体の隅々までていねいに洗い清めます。
手の指を一本一本ていねいに磨きあげます。
趾(足指・くるぶし)も一つ一つ磨きあげます。
多佳子様は御自分の身体を一生懸命に「愛し」てあげたのです。
どこに出しても恥ずかしくないようにピカピカになるまで愛したのです。
「愛」は、積極的な「愛」の行動が伴わなければ意味がありません。
多佳子様は「愛」の実践者だった。
観念の愛でなく、人や自然や真実を「愛して」生きた一生でした。

読みかた: ゆきのひのよくみいっしいっしあいし


(この項、2008年8月20日。記す)
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さて、
貴女の俳句に惹かれて、それでブログまで作ってしまいました。
…と申しましても決して【ファン倶楽部】ではありません
貴女の俳句に学び、貴女の俳句に近づき、自分の俳句を詠みたいのです。
そしてそして、貴女と私の「二人句会」になったら好いなと…そんなこと考えます。拝。

(尚、上記メッセに少しでも共感できる方のお立ち寄りを歓迎いたします)
(この項、2008年7月16日。記す)
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(104)番目の句   橋本多佳子

2008/09/17 21:24

葛蔓(くづ)帯の阿蘇のくにびと野(ぬ)火かくる

(くずたいのあそのくにびとぬひかくる)
 

多佳子様は阿蘇の野焼きをご覧に行かれたのですね。

野火に地元の人々は春の到来を感じるのでしょうか。

きっと、阿蘇草千里と云うほど広範囲に亘るのです。


葛蔓は阿蘇草千里の到る所に生えているのでしょう。

春には熊本の人たちは一斉に野火を放つのでしょう。


七〜八メートルにも及ぶ火柱が立って野を駆けます。


 
野火 (海燕・昭和十一年の句)
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(103)番目の句   橋本多佳子

2008/09/15 18:08

吹雪きて天も地もなき火の葬り


(ふぶききててんもちもなきひのほふり)

吹雪に襲われて天も地も見分けがつかない状況下で荼毘に付された。


【冬の季】  (葬)  (海燕・昭和十一年の句)
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(102)番目の句   橋本多佳子

2008/09/15 18:00

葬(ほふり)の炉火が入りしまく天鳴れり


(ほふりのろひがいりしまくてんなれり)


 
荼毘に付すための炉に点火されて、天が鳴動するように炎が轟轟と巻き上がる。


【冬の季】 (葬)  (海燕・昭和十一年の句)



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(101)番目の句  橋本多佳子

2008/09/15 17:42

雪の野ははるけしここに人を焼く
  

(ゆきののははるけしここにひとをやく)



雪の野を通って遥々と柩を運んできて荼毘に付すのです。


【冬の季】(葬) (海燕・昭和十一年の句)


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百句まで何とか辿りつきました

2008/09/05 20:13
今日は行き詰るか、明日は行き詰るかといつも思いながら、
それでも多佳子様の詩心の魅力に惹かれてやって参りました。

これからも私の読解力でスンナリ読める筈はありませんけど、
好きで歩き始めた多佳子様の俳句の世界に変わりありません。

ここで少し休憩させて戴いてから、また歩きたいと思います。
そうは申しましても、一週間ほどの中には再開する予定です。
その時、このブログの体裁を若干変えさせていただく所存です。


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わが眼路の柩かくしぬ雪しまき   橋本多佳子 (100)

2008/09/04 06:15

【冬の季】  (葬)

さあ、もう安心して好い。誰ひとりも柩を見えはしないわ。


多佳子様の目の及ぶ場で、柩も貴女も誰の目にも見えない。
強い風に巻き上げられて雪は今、人の視界から全てを消した。


もしか、柩の中に大切な夫・豊次郎氏の姿を見たのかしら…
結局、貴女がこの世で安心して過せた場所に旦那様はいた。
いつでも甘えていたい貴女を護ってくれた豊次郎氏でした。
そう!生れ変っても豊次郎氏はまた貴女を大切に護れるよ。



(わがめじのひつぎかくしぬゆきしまき)

(海燕・昭和十一年の句)
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雪しまきわが喪の髪はみだれたり   橋本多佳子 (99)

2008/09/04 05:37

【冬の季】  (葬)


翌年十二年に夫・豊次郎氏を亡くされたのですけど、
数年前から闘病生活を続けておられた御主人でした。
それは大黒柱を失うという当に橋本家最大のピンチ。
その間の多佳子様の心労は如何ばかりだったかしら。

慣れない経済のやり繰りに神経の休まることはない。
昭和十一年、多佳子様は三十七歳にお成りでしたね。
御髪には白い物がチラホラ見え隠れしていたのかも、
そのような折も折、どなただかの葬儀が行われたの。



その葬儀は強い風をともなう雪に見舞われたみたい。
人前にお出でになる多佳子様は入念にお仕度なさる。
その多佳子様を護ってくれる物は今はもう何もない。
強い風と雪の煽りを受けて、多佳子様は哀しかった。
御髪は乱れて雪が白髪のように光って見えたのかも。



こんな惨めな姿を夫・豊次郎氏にも曝した事はない。
この葬儀がどなたのだかは知らないけれど…もしか、
多佳子様は御自分の葬儀を想い描いたのでしょうか…

豊次郎氏の元へ旅立とうとなされる今際の多佳子様。
愛する夫に惨めな姿をお見せするなんて、絶対に嫌。
多佳子様のいちばん素敵なお姿をお見せしたい筈ね。



(ゆきしまきわがものかみはみだれたり)

(海燕・昭和十一年の句)
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ひと待ちぬ約せし花舗に毛皮ぬぎ   橋本多佳子 (98)

2008/09/03 18:33

【冬の季】  (地下の花舗)


多佳子様は待ち合わせなさってらしたのね。

凍えないよう、地下街の花舗で待ち合わせ。

花舗へは多佳子様の方が早く到着なさった。

そこは毛皮を脱いでちょうど好い温かさなの。




(ひとまちぬやくせしかほにけがわぬぎ)

(海燕・昭和十一年の句)
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地下の花舗汗ばむ毛皮肩にせり   橋本多佳子 (97)

2008/09/03 18:23

【冬の季】 (地下の花舗)


寒い凩の中で、毛皮は温かいよね。

けど、地下街の花舗では不要なの。

毛皮を身に着けてたら汗が出るわ。

それで脱いだ毛皮を肩に掛けたの。




(ちかのかほあせばむけがわかたにせり)

(海燕・昭和十一年の句)
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地下の花舗温室の白百合路にあふれ   橋本多佳子 (96)

2008/09/03 18:19

【冬の季】  (地下の花舗)


地下街に花舗がオープンしているようなのね。

その花舗は白百合を保管庫から出していたの。

花舗の前の地下通路に白百合が並べられてる。




保管庫に置いても通路に置いても条件は一緒。

冷蔵保存しなくても、通路で充分間に合った。




(ちかのかほむろのしらゆりみちにあふれ)

(海燕・昭和十一年の句)
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ひとを運ぶ階は動けり地下凍てず   橋本多佳子 (95)

2008/09/03 18:12

【冬の季】 (地下の花舗)


地上はもはや凍てて冷え切っているわ。

貴女が通った階段やフロアは如何なの?

そこは凍てる程でなくて動けたようね。




(ひとをはこぶかいはうごけりちかいてず)

(海燕・昭和十一年の句)
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落葉あり地下の掃除夫路を洗ふ   橋本多佳子 (94)

2008/09/03 18:07

【冬の季】  (地下の花舗)


落葉が地下通路に落ちていたのね。

きっと風に舞い、迷い込んだのね。

通行人の下足に踏まれて泥んこよ。

当然、通路も泥んこになっている。

それで掃除人が地下道を掃除した。



(おちばありちかのそうじふみちをあらう)

(海燕・昭和十一年の句)
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凩は遠き地に鳴り地下をゆく   橋本多佳子 (93)

2008/09/03 17:58

【冬の季】  (地下の花舗)


冬の冷たい風が吹き荒さぶ極寒の真っ只中にいる。

離れた遠くの地から凩の暴れる音が伝わってくる。

それで貴女は凩を避けて・安心な進路をとったの。

つまり多佳子様はどこかの地下道に入ったって事。



(こがらしはとおきちになりちかをゆく)

(海燕・昭和十一年の句)
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ひとりゐて落ちたる椿燻べし炉火   橋本多佳子 (92)

2008/09/03 01:29

【冬の季】  (二月)


落椿投げて暖炉の火の上に…高浜虚子が詠んだ句です。

この落椿を投げ入れたのは、云わずと知れた多佳子様。

大勢の文化人が集った句会の席での即興の一句でした。

この句で多佳子様は俳句に言い知れぬ安心感を覚えた!

作句の道に入ってからは一層、落椿を忘れられないよ!



今回、多佳子様はお一人で部屋にいらっしゃったのね。

それで、お部屋に飾った椿の花弁がポトッと落ちたの。

この光景から多佳子様の脳裏に蘇えった櫓山荘なのね。

虚子が落椿を詠んでくれた・あの句会の壁炉のお部屋。

落椿の炎や煙が炉火に燻(くす)ぶりつつ昇っていった。

俳句を透してみた落椿は最早塵でなくて、芸術品なの。

落椿に命を与えた俳句の力に多佳子様も力を得たんだ。



「燻べし」について「くべし」と読ませて戴きました。

初めに「くべし」があって「燻べし」を当てたのかも?

杉田久女氏が遣っていたであろう「くべる」に倣った?

つまり「くべし」は「焼べし」で、「燃やす」の意味。

ここは些か強引ですけど、私流の読み方という事で…。



(ひとりいておちたるつばきくべしろび)

 (海燕・昭和十一年の句)
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書をくりて風邪の憂鬱ひとり黙す   橋本多佳子 (91)

2008/09/02 21:20
【冬の季】 (二月)

風邪をひいた多佳子様の一日を詠んだ句。



お部屋には多佳子様がいらっしゃるのみ。

多佳子様はお風邪を召されたようですね!

病床で気分はブルーで、話相手もいない。

多佳子様は書物のページをめくっている。



(しょをくりてかぜのゆううつひとりもくす)

(海燕・昭和十一年の句)
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煖炉もえ末子は父のひざにある   橋本多佳子 (90)

2008/08/31 23:14

【冬の季】  (二月)


お部屋には煖炉がよく燃えているのね。

そのお部屋には御主人様が病床にある。

その翌年に亡くなられた御主人様の事ね。

末っ子にはお父様の記憶が少ない筈よ。

それで、お父様のひざの所で遊ばせた。

遊んだこと等を、きっと覚えてるよね。



(だんろもえおとごはちちのひざにある)

(海燕・昭和十一年の句)
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煖炉たき吾子抱き主婦の心たる   橋本多佳子 (89)

2008/08/31 23:00

【冬の季】  (二月)


煖炉でお部屋を暖かくしているのね。

四人のお嬢さんがいらっしゃる筈よ。

それで一番下の女の子は未だ幼いの。

その子を抱いてあやしてらっしゃる。

そんなご自分を写生なさったのです。



(だんろたきあこだきしゅふのこころたる)

(海燕・昭和十一年の句)
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雪去れりスケートリンク天と碧き   橋本多佳子 (88)

2008/08/31 01:22

【冬の季】  (六甲山上)


  
今まで降っていた雪が止んだのね。

スケートリンクに青空が映ってる。

仰ぐ天には青空が広がっているよ。



(ゆきされりすけーとりんくてんとあおき)

(海燕・昭和十一年の句)
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スケートに青槇雪をふきおとす   橋本多佳子 (87)

2008/08/31 01:11

【冬の季】(六甲山上)



槙の木の緑の葉に掛った雪が風に舞ったのね。

それでスケートしてる人にバシャッと掛った。



槙は寒さに強いから防風林に植わってたのね。



(すけーとにあおまきゆきをふきおとす)

(海燕・昭和十一年の句)
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スケートの汗ばみし顔なほ周る   橋本多佳子 (86)

2008/08/31 00:50

【冬の季】(六甲山上)


息も凍る寒いスケートリンクだけど、
滑ってると温もって汗ばんでくるよ。
顔から汗が流れるけど、まだ周るよ。


愉しくて堪らないって感じが出てる。



(すけーとのあせばみしかおなおめぐる)

(海燕・昭和十一年の句)
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スケートの手組めり体はたえずななめ   橋本多佳子 (85)

2008/08/31 00:40

【冬の季】(六甲山上)


男性とペアを組んで滑っては見たけれど、

体はいつでも真っ直ぐに立てなかったの。

のけ反ったり、ペアの男性にもたれたり…



(すけーとのてくめりからだはたえずななめ)

(海燕・昭和十一年の句)
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スケートの手組めりつよき腕と組めり   橋本多佳子 (84) 

2008/08/31 00:24

【冬の季】  (六甲山上)


多佳子様は男性の手に支えられてお滑りになったのよね。

初めは立つのだって難しいもの…誰かに支えてほしいよ。

それで多佳子様は力強い男性とペアを組んだのでしょう。



(すけーとのてくめりつよきうでとくめり)

(海燕・昭和十一年の句)
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スケートの面粉雪にゆき向ふ   橋本多佳子 (83)

2008/08/30 23:42

【冬の季】  (六甲山上)


多佳子様は六甲山上のスケートリンクでスケートを楽しまれたのね。 



滑っているお顔に粉雪がまともに降り掛かったのね。

そうなったらもう、なんにも見えなくなっちゃうよね。



(すけーとのおもてこなゆきにゆきむかう)

(海燕・昭和十一年の句)

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吾子そろひ凩の夜の炉がもゆる   橋本多佳子 (82)

2008/08/29 19:14
    【冬の季】  (凩)

ここは小倉から引っ越した大阪・帝塚山のお家ね。
多佳子様は昭和十二年に夫・豊次郎を亡くしてる。
この句はその前年の作だから、夫の療養中の作句。
来年は女性だけ五人家族になってしまう運命なの。


多佳子様と四人のお嬢さまが煖炉の前に揃ってる。
屋外では厳しい行く末を暗示するように凩が騒ぐ。
娘四人をどう育てようかと多佳子様は悩んでいる。
世間に疎い多佳子様は今、暖炉に命を養ってるの。


(あこそろいこがらしのよのろがもゆる)

(海燕・昭和十一年の句)
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凩の天鳴り壁の炉が鳴れり   橋本多佳子 (81)

2008/08/29 18:57
   
【冬の季】  (凩)

壁の炉といったら「落ち椿」の句を思い出します。
多佳子様を初めて詠った句に「炉」が出たのです。
確か、あの炉が「壁の炉」だったと記憶している。
西洋式の居間だと、隙間風が入り難くて安心です。
暖炉に火が燃えていて、どんなに寒い夜も大丈夫。



外は凩が吹き荒れ、生き物たちは翻弄されている。
凩は隠れ家で寒さを凌ぐ生き物たちをも狩りたい。
屋根瓦をめくり、壁を破って中に入ろうとする凩。
屋内の多佳子様にも凩の騒ぐ物音は聞こえてくる。
屋根も壁も頑丈だし、炉からも決して入られない。


(こがらしのてんなりかべのろがなれり)

(海燕・昭和十一年の句)
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凍てし燈の光の尾さへ風が奪ふ   橋本多佳子 (80)

2008/08/28 20:37

【冬の季】  (凩)


道行く人は北風に背中をゾクッとさせながら通り過ぎる。
街燈の明かりが凍てついたように弱弱しく感じられる夜。
ただ、街燈が暗く感じられるのは気のせいだけではない。



これは凍てつく凩がピューピュー吹きつける夜の道路。
大気が冴える夜空に街燈がクッキリと輝いているのね。
凍った夜気の先に灯る街燈はなんとも心強いものです。
ほっと身も心も緩んで、一息ついたような気分になる。

今夜はいつになく眩い感じがしないのは、何故かしら?

ん? 街燈の光の尾、仏像の光背のような光が無い。
ダイヤモンドクロスみたいな燈の煌めきが消えてるの。
光の尾はどこに消えちゃったのかしら。凩の所為なの?
街燈の光の尾は吹き荒ぶ凩にでも持っていかれたの?



うん!光の尾が無いのは確かに凩にも原因があるよね。


(いてしひのひかりのおさえかぜがうばう)

(海燕・昭和十一年の句)
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凩は地に鳴り路を白らめたる   橋本多佳子 (79)

2008/08/27 09:21

【冬の季】  (凩)

晩秋から初冬に吹く冬型の季節風は凩と呼ばれる。

天空にあっては大気を運び去り・雲を吹き払う凩。

地にあっては物の温もりを奪い・湿気を拭い去る。



凩に襲われし樹々は撓み泣き、家々の戸は軋もう。

凩が吹き荒ぶ路面は見る見るうちに乾き干あがる。

水気を失った地表には白くなった砂ぼこりが立つ。

まさに、凩は大地に鳴り、路には白けた感が漂う。



(こがらしはちになりみちをしらめたる)

(海燕・昭和十一年の句)
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凩の白雲ひとつ光りてゆけり   橋本多佳子 (78)

2008/08/27 04:21
【冬の季】  (凩)

これは冬空に浮かんでいる白雲を詠んだ句なのね。
ひと口に冬空と言っても色々な表情をするものよ。
日々刻々、表情を変えるのが冬の空の特徴なんだ。
真っ白な雲、真っ黒な雲、雪もよいの雲もあるわ。
どんより曇った空から降ってくる雪もやがて止む。
その雪が止んだ後の青空といったら清しいばかり。


冬の初め、北から強烈な寒風が吹いてくる頃なの。
地の生きる全てが寒風に襲われて黙らせられる。
頭上に広がる青空は所狭しと凩が唸って暴れてる。

真っ青な空を真っ白な雲が翻弄されつつ現れたの。
凩に煽られ・蹴られ・転がされ、変形し続ける雲。
雲は険しい表情や悲しい素振り・おどけてもみる。

千切れそうになりながらも必死に耐えてもいるわ。
もくもく湧き上がるようにして挑むしぐさも好い。
戦いに生きるヒーローの実に迫力いっぱいな勇姿。

そしてその時なのね、胸すくような場面に出合う。
白雲は毛羽立ったかと思うと、強く眩く耀いたの。
多佳子様は凩と白雲の葛藤の場に立合われたのね!


凩で白雲は耀いたんだと受け留められた多佳子様!
冷たい凩…それで白雲が光ったのは重要な事実ね!

(こがらしのしらくもひとつてりてゆけり)

(海燕・昭和十一年の句)
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秋の蚊帳枕燈ひくくよみて寝ず   橋本多佳子 (77)

2008/08/26 09:00

【秋の季】  (ひと日臥し)


秋の蚊は血をたっぷりと欲しがるってね。
それなら蚊帳はまだまだ手放せない訳だ。
ぅん? 枕燈(枕火)を準備していたのかぁ!
合理的な多佳子様らしい用い方なのね。



昼間、ずっと寝ていらっしゃったんだ。
それで夜になると目が冴えてくるよ。
これから秋の夜長をどう過ごすお積り?

枕元にちっちゃな灯りを置いてたんだ!

胸元に枕して・頬杖ついて・読書なの?
読み物についつい熱中してしまったの?
止められなくて、夜更かししちゃったの!
お行儀悪いって、娘に叱られなかった?



(あきのかやまくらびひくくよみてねず)

(海燕・昭和十年の句)
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青き蛾のとびて夜が来ぬひと日臥し   橋本多佳子 (76)

2008/08/26 08:35

【夏の季】  (ひと日臥し)


蛾が勢いよく飛び舞っている。

もう夜になってしまったのね。

日がな一日、寝ていたのだわ。



(あおきがのとびてよがきぬひとひふし)

(海燕・昭和十年の句)
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ひと日臥し庭の真萩もすでに夕べ   橋本多佳子 (75)

2008/08/26 07:57

【秋の季】  (ひと日臥し)


多佳子様は丸一日、床に臥せっていらしたみたいね。

庭に植わっている真萩の花が気がかりなご様子なの。

多佳子様はきっと真萩がお気に入りなのでしょうね。

だけどもう、夕方なの! 庭も夕暮れて見えないよ。



萩:全国的に見かける花。万葉集にも最も詠まれている。

別名、「芽子」「生芽(ハギ)」 とも云われるようです。



(ひとひふしにわのまはぎもすでにゆうべ)

(海燕・昭和十年の句)


★萩の画像を次のアドレスに見つけました。

  http://iyashi.midb.jp/search/?mode=plant&id=33
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冬の燭見て吾を見しにはあらざりし   橋本多佳子 (74)

2008/08/24 21:53

【冬の季】  (京都島原)


冬のことなのね? 闇に街燈の灯りが眩しい。
蛾でなくても、人だって明りに引き寄せられる。
何もかもが・誰もかれもが、明るいが好きよね。


(余計なお世話かも知れないけれど…)
冬の燭と語り合えたら楽しくて好かったけどね。
冬の燭は貴女を見つめていたかも知れないよ。
冬の燭は貴女にヤキモチを妬いていたかもね。
だって、貴女の身分は幸せな恋人だったのよ。



(ふゆのしょくみてあをみしにはあらざりし)

(海燕・昭和十年の句)
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冬の燭遊び女に吾にまたたかず   橋本多佳子 (73)

2008/08/23 18:27

【冬の季】  (京都島原)

ここは京都・島原、日本最古の幕府公認の花街なの。
新選組隊士や勤皇の志士も遊廓で女遊びに耽ったわ。

夕闇の中に大門がお出でおいでして手招きしてるの。
大門を潜ると揚屋や置屋が軒を並べて、遊女が歩く。
芸者はお客を歓待して厭きさせないように持て成す。
詠み、謡い、唄い、弾き、舞い、語って、遊ばせる。

燭って…蝋燭(ろうそく) の灯り? ランタンかしら?
燭の灯が空気の動きに合わせて揺らいでいるんだよ。
遊廓では燭の灯までが一所懸命にお客様を歓待する。

多佳子様も島原遊廓に連れられていらっしゃったの?
なぜだか知らないけど多佳子様は愉しめなかったの?
おやさしい多佳子様!後ろめたいお気持ちになった?
多佳子様がいらっしゃるには、場違いに思われたの?



貴女が島原に遊んだのは冬の頃なのね
遊び女たちはお客の接待に余念がない

大門をくぐって入った大通りの街燈も
遊廓のランタンの燈も知らんぷりなの
燈火は貴女に微笑んでくれなかった
遊ぼうよって、微笑んでくれなかった

男の遊び場に来るなんてどうかしてた
ホステス役の貴女の席は見当たらない
貴女なんかの来るところじゃないって
よそよそしい風が貴女を責め立てたの


みんなも忙しいもの…仕方ないのよね



(ふゆのしょくあそびめにあにまたたかず)

(海燕・昭和十年の句)
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野をゆきつ吾にも馴れし北しぐれ   橋本多佳子 (72)

2008/08/22 20:41
  
【冬の季】  (醍醐寺路)


貴女は京都・醍醐寺路の野路をお歩きになったのね。

それで北時雨は、貴女に馴れて・懐いたのでしょう。

多佳子様は誰とでも・何とでも、仲良くなさるのね。

それで北しぐれは貴女を仲良しと認めてくれたのね。



(のをゆきつわれにもなれしきたしぐれ)

(海燕・昭和十年の句)
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北しぐれ野菊の土はぬれずある   橋本多佳子 (71)

2008/08/22 09:32
   
【冬の季】  (醍醐寺路)

野菊は秋の季語で秋空は天候が変わりやすい季節です。
然るに貴女は雨に濡れない野菊の土をお詠いになられた。
北時雨の中で、貴女の目には野菊が留ったのでしょうか。
その野菊が咲いていた土だけど、濡れなかったのかしら。
貴女が醍醐寺路で御覧になった光景はこれで合ってる?

野菊からイメージする物は人それぞれに異なるでしょう。
極寒に咲く野菊、海沿いに咲く野菊、昆布干場の野菊…
それで多佳子様はどう思われたのかしら…と考えました。
だけど私に判る筈もありませんし、私の感性に従います。
野菊という名称から私は「野菊の墓」を心に思い浮べます。


それでその物語の抜粋のいくつかを次下に挙げてみます。

「野菊がよろよろと咲いている。」「私なんでも野菊の生れ返りよ。」
「民子は全くの田舎風ではあったが、決して粗野ではなかった。可憐で優しくてそうして品格もあった。厭味とか憎気とかいう所は爪の垢ほどもなかった。」
「そのほどよい所の新墓が民子が永久の住家であった。葬りをしてから雨にも逢わないので、ほんの新らしいままで…」
「弔いの人に踏まれたらしいがなお茎立って青々として居る。民さんは野菊の中へ葬られたのだ。」
「毎日七日の間市川へ通って、民子の墓の周囲には野菊が一面に植えられた。」


「野菊の墓」は1906年1月「ホトトギス」誌上で発表されている。
その時、多佳子様は七歳だけど…めぐり合いって不思議です。


山廻りしていたような「北しぐれ」が来たわ。
…と言ってる間にも、もう行ってしまった。
ぁ! 野菊の花の所は…濡れていないの。
あの時、野菊の墓も濡れてなかったっけ…。

野菊の「生れ返り」の民子が眠ってるお墓。
野菊がいっぱい咲いてる中に葬られたのね。
民子が葬られてから、雨は降ってなかった。
泣いて泣いて泣いて…けどもう泣かないで!
これから民子は心安らかに過せるのだもの。
それに心許せる人を得て…民子は仕合せよ!



(きたしぐれのぎくのつちはぬれずある)

(海燕・昭和十年の句)

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里びとは北しぐれとぞいひつ濡れ   橋本多佳子 (70)

2008/08/21 22:27
【冬の季】  (醍醐寺路)


時雨は冬の通り雨で、傘を差すか差さないうちに晴れてくる雨。
小さな雨雲がやってきて暫しの間降ってから、サッと上ります。

京都の北山杉の山々を「山廻りする」時雨の事を北山時雨という。
今は北山時雨といいますが、以前は北時雨とも云ったようです。



京都の土地の人々は北時雨だから直ぐに行ってしまうと言って濡れている。


(さとびとはきたしぐれとぞいひつぬれ)

(海燕・昭和十年の句)



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師匠を育てる詩人が好いな

2008/08/15 21:58
俳人はそれぞれに個性を持っているから面白い。
そんなことは常識だから、誰もいちいち言わない。
それをここで敢えて取上げて考えてみたいと思う。

それで、ここで私が何を言いたいのかと云うと…

松尾芭蕉と正岡子規の二人は特に優れている。
何が・どういう面で優れているかが肝要ですよね。
俳人の俳句の上手い・下手は私には判りません。

私に判るのは、二人は或る面で突出してるって事。
その面で多くの俳人凡てが劣ってるとは思わない。
だけど、有名な俳句の師匠たちは凡て劣っている。

あはは!言い過ぎたかも知れないけど、本当だよ。
マァ、比較の相手が芭蕉と子規だから堪えてよね。
二人の特徴をひと言で表すと、人間が大きいのね。

二人は自分と同等の人間を育てようとしたのです。
結局、弟子を育てるか師匠を育てるかの違いなの。
即ち、師匠を育てる人を大物と定義して好いと思う。

だから、芭蕉とか子規並の人を育てる人が大物ね。
この盆休みにそんな事をふっと思ったりしたのです。
何の力もない私が言うこと…目くじら立てないでね。

そうそうそう、言い忘れたから付け足して置きます。
橋本多佳子を大きく育てたから杉田久女は大物ね。
杉田久女には甘口採点しちゃったかも。ゴメン。^^
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他句自解

2008/08/15 12:30
筆を休める三日ほどの中に色々の文章に目を通す予定です。
それで気が付いた事など、思いつくまま述べたいと思います。

俳誌の中には、橋本多佳子氏の「自句自解」が載っています。
そこには作句の舞台・時・状況・感じたこと等が解かりやすい。

うん!俳句は「自句自解」が親切じゃないのかな…そう思った。

それにしても、俳誌は多いけれど、俳人は多いけれど…です。
有名な俳句は沢山あるけれど、それへの誉め言葉をみます。

この句は好き/あれもすごいです/あれは好い句です/若い人に受ける句/本当に好い作品が多い/うまいですね/格調高い/粒ぞろいの好い句/傑作です/絶品ですね/生活の実感がある句/印象的な句/女らしい句/男だから詠めた句/感性の鋭さを感じる/神経が行き届いた句/愉しんで詠んでいる…etc。

これらは何れも、一流俳誌と言われる編集者や俳人の批評の抜粋です。
そしてこれらの誉め言葉を逸脱して突っ込んだ評価をする人には厳しい。

その評価は感心しない/句の心が解かっていない/自分勝手な解釈…etc。


私は橋本多佳子氏の俳句を私の感性で解釈し・読ませて戴いてる。
すなわち【他句自解】と申せましょうか。

現時点で他句自解という単語はネット検索しても見つかりません。
日本では、他人の俳句を解釈する習慣がないのかも知れません。
だけど、真に善い俳人が生れるためには、それではいけないと思う。
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不思議なご縁なのね

2008/08/14 19:36
貴女の句に引き寄せられて来たけれど、

     貴女に惹かれなければ来ることはない。


このお盆に合わせた訳ではないけれど、

     人と人のつながりの不思議を感じるわ。


貴女について行くのはタイヘンだけど、

     貴女の句は辻褄が合うから大だい好き!


これからも、もっと教えてちょうだいね !!





(明日から2〜3日間、筆を休めさせていただきます)

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曼珠沙華みとりの妻として生きる   橋本多佳子 (69)

2008/08/14 19:13

【秋の季】  (みとり)



いつだって貴女は雑念に囚われないで、素直に生きたわ。

それは曼珠沙華の花のように潔い、人間らしい生き方ね。

夫の保護者として介護しながらも、常に懸命に生きたのね。



(まんじゅしゃげみとりのつまとしていきる)

(海燕・昭和十年の句)
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茎高く華もえ澄めり曼珠沙華   橋本多佳子 (68)

2008/08/14 19:06

【秋の季】  (みとり)



多佳子は昭和十二年に夫・豊次郎氏を亡くしている。

これは、その二年前・看病していた頃の作句と思う。

本来なら、ひと回り年上の夫に甘えていたい多佳子。

けれども今は逆に、病気の夫が多佳子を頼りにする。

「のんびりしていられない。しっかりしなければ」

そんな思いで多佳子は過していたに違いありません。

自然に多佳子の神経は昂揚し、感覚は冴え渡ります。

鋭い感覚は宇宙の森羅万象の凡てを捉えていきます。




曼珠沙華が長い茎の先端に炎える花弁をつけている。



曼珠沙華と貴女と、気品を湛え炎えて澄んでいたのね。


(くきたかくはなもえすめりまんじゅしゃげ)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華日は灼けつつも空澄めり   橋本多佳子 (67)

2008/08/14 04:06

【秋の季】  (曼珠沙華)



空(くう)の心は澄んだ心ですね。



照りつける真夏の太陽、それでも、

それでも空は青く澄んでいますね。

即ち、曼珠沙華のこれは心ですね。

しかも、多佳子様の心なのですね!




(まんじゅしゃげひはやけつつもそらすめり)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華日はじりじりと襟を灼く   橋本多佳子 (66)

2008/08/14 03:58

【秋の季】  (曼珠沙華)



曼珠沙華は真夏日のかっかと炎える太陽の子供なの。

太陽は、日中は休む間もなく凡てを焼き尽くすよね。

自分自身を焼き尽くす凄い勢いで燃えてるんだもの。

曼珠沙華も貴女もちっとも例外じゃなかったって事。

お日様にじりじり焼かれて、それなら襟も乱れるよ。

どこかの涼しい木陰で、汗を押さえてらっしゃいな。



多佳子様に惹かれた訳…お日様に惹かれた訳だよね。


(まんじゅしゃげひはじりじりとえりをやく)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華折りて露草わすれたる   橋本多佳子 (65)

2008/08/14 03:44

【秋の季】  (曼珠沙華)


曼珠沙華で遊んでいるとドキドキするよね。

知らず懸命になってる自分に気付いたり…。

お日様の力?威力?お日様は凄まじいもの!

それなら露草は優しくて、お月様の子なの?

美しいお月様!だけど昼間は忘れちゃうよ。



ん!多佳子様って露草も大好きだったのね。

私も露草がだい好き!蛍草とも言うのよね。




(まんじゅしゃげおりてつゆくさわすれたる)

(海燕・昭和十年の句)
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野路ゆきて華鬘つくらな曼珠沙華   橋本多佳子 (64)

2008/08/14 03:39

【秋の季】  (曼珠沙華)


曼珠沙華を身につけてお日様の子になりたいの?



野路に曼珠沙華がいっぱい咲いているのですね!

その花に糸をとおして首飾りを作ろうかしら…。

その華鬘(けまん)を身体に巻きつけようか…。

それとも、お部屋いっぱい吊るして飾ろうか…。




貴女のお気持ち、私も少しは分かる気がするよ。


(のじゆきてけまんつくらなまんじゅしゃげ)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華火立の花瓣うずまける   橋本多佳子 (63)

2008/08/14 03:34

【秋の季】  (曼珠沙華)


じっさい、曼珠沙華の花弁って、お日様の炎の渦巻き、そのまま…。

私も貴女が感じられた自然の摂理に矛盾は無いとつくづく思います。



(まんじゅしゃげほだちのかべんうずまける)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華折りたる手にぞ火立もゆ   橋本多佳子 (62)

2008/08/14 03:24

【秋の季】  (曼珠沙華)


子は親の分身だし、仏の子なら仏の分身よ。そうでしょう?

子は親の力を貰える。誰が自分の親なのか確かめなきゃね!



曼珠沙華がお日様の子供なら、曼珠沙華は日輪の分身だよ。

曼珠沙華を手折りし手に、火立ちはしっかり燃えてるのね。




(まんじゅしゃげおりたるてにぞほだちもゆ)

(海燕・昭和十年の句)
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曼珠沙華咲きて日輪衰へず   橋本多佳子 (61)

2008/08/14 03:17

【秋の季】  (曼珠沙華)


多佳子さま! 曼珠沙華ってお日様の子供なの?

親の力を貰って、子供は元気に育つモノだけど、

子の元気に、親もまた力を貰えるモノでしょう。




曼珠沙華が燃えるように真っ赤に咲いているわ。

日輪は衰えることなく、益々盛んに燃えている。



(まんじゅしゃげさきてにちりんおとろえず)

(海燕・昭和十年の句)
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送り火が並び浦曲を夜にゑがく   橋本多佳子 (60)

2008/08/12 22:02

【秋の季】  (磯)


浦曲(うらわ)って、海が陸地に深く入り込んだ所のこと。



これは沢山の灯篭が潮流に乗って浦曲に沿って広がったの。

灯篭の火が夜の海にちょうど浦曲の形を描きだしているわ。



知らない人たちも沢山いらっしゃるわ。

みんなみんな、祖霊の幸せを祈るの。

そんな素敵な人たちが浦曲に集った。

そんな皆の送り火が浦曲を描いたの。

偶然に集ったと思うかも知れないけど、

親子の出逢いを偶然と言わないよね!?

どんな出逢いも偶然じゃないと思うの。

その出逢いを汚す生き方はいけない。

お盆の意義…命の繋がりを確認しよう。

多佳子様はそう仰りたかったと思うの。



(おくりびがならびうらわをよにえがく)

(海燕・昭和十年の句)
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浦人の送り火波に焚きのこる   橋本多佳子 (59)

2008/08/12 21:54

【秋の季】  (磯)



送り火・海に流した灯篭は燃えて沈んでしまいます。

浦里の漁民の灯篭…波を受けて火が消えたのかしら。

灯篭が燃え切れずに近くを漂っているみたいなのね。

ドンマイ!お月様もしっかり見守って下さってるわ。

だからちっとも、心配は要らないの。そうでしょう?




(うらびとのおくりびなみにたきのこる)

(海燕・昭和十年の句)
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